Cu roon


「なあ、プリント持ってきたぜー」
俺は毎月出さなければいけない部の書類を提出しに来た。
しかし俺の声には何も返ってこなかった。
生徒会室の中を見回すと、いつもの席ですやすや寝息を立てている安形がいた。
「おーい起きろよ」
起こしたいはずなのに安形の寝顔を堪能したい気持ちしかなくて、小さな声で少しずつ近づいた。
安形の前まで来ると、いつもの大人びた顔ではなく無防備な子供の顔が見えてほんの少し鼓動が早くなった。
…本当はものすごく早くなった。
今まで隠してきた気持ちが溢れそうだ。いや、もう溢れた。
俺はもう頭で考るとかそんな次元じゃなくて体が勝手に動いた。
チュッ。
接吻(キス)をした。本当は唇にしたかったが理性と、寝ているのにという罪悪感から頬にした。
その時に甘いにおいがして、より好きになった気がした。
もう書類が出せなくても満足だ。
フフン〜…と鼻歌を歌いながら廊下へ向かった。
「今の…」
今まで寝ていたはずの安形があくびをしながら言ってきた。
俺は顔が赤くなり、生徒会室を出たい一心で大きな音を上げて早く戸を開けた。
しかし安形はすぐに立ち上がり俺の手をつかんで、溜息をついた。
「なんでしたんだ?」
ん?どうした、と笑顔で問う。満面の意地悪な笑みだ。
顔が真っ赤に変わっていくのを感じ、下を向いた。
「腕、放せよ」
言ってみたが、安形はさっきよりも強い力で腕をつかんできた。
そしてさらに意地悪な笑顔を見せた。
「なあ、藤崎は俺に対してどんな気持ちを持ってる?」
そういい終わるか終わらないかのところで俺の顔が安形のシャツに触れた。
一瞬何が起こったのか分からなかった。しかし安形の言葉で理解できた。
「藤崎はさ、俺に抱きしめられて嬉しいか?」
俺は恥ずかしくて涙が出そうだったけど小さな虚勢ぐらいは張れた。
「なんだよ、うっせぇ」
「かっかっかっ。素直になったらどうだ?」
そう言って抱きしめる腕の力を強くした。
「……だ」
頑張って告白をした。
でも、少し勇気が足りなかったようで安形に俺の声は届かなかった。
「ん?なんだよ」
しかし、分かっているだろうにわざわざ聞くのは酷い。
「……す……きだっ」
声を振り絞った。もうこれ以上恥ずかしい事は無いだろう、というぐらい顔を赤くして。
「そうか」
安形は短く、淡々と言っていたがとても嬉しいのだろう。
それは次の言葉で証明された。
「キスしていいか」
もちろん良いのだが自分で言うのは恥ずかしくて小さく頷くのが精一杯だ。
安形は俺の顎を持ち、軽く口付けをした。

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